さて、設計です。
レイアウト「上総鉄道」製作時、建物は実に36棟を作りました。新田駅の待合室のみキット組立で、他は全て自作です。
詳細はレイアウトのページで解説しますが、その頃は千葉県を中心に関東地方に現存する実物を多数取材し、建築文献も10数冊購読して研究しました。
その成果は今回も生かしています。当作品は出桁造で間口の広い2階建ての店舗に、平屋の住居が直角につながっていますが、これは房総半島における昔の商家の標準構造なのです。
千葉県立総南博物館編『集落・町並』(千葉県教育委員会発行)によると、「道路に面して2階建・切妻造・平入・桟瓦葺きの店部分があり、その背後に平屋の居住部分が接続する(棟はT字型になる)形式で、正面2階の軒は出桁造となり、1階には半間の庇が付く」と述べられています。
当作品はその種の商家でも大規模な部類とし、間口が5間で奥行きが3間半、住居の間口も3間半で設計しました。都市部では商店のほとんどは間口の狭い、ウナギの寝床型の建物ですが、これは住宅が密集しているため必然的にそうなったもので、土地に余裕がある田舎では、逆に間口の方が広い商家が多く見受けられます。
日本建築は尺貫法で建てられているので、基本構造を理解すれば設計はそれほど難しくありません。1間は6尺、すなわち182cmですから、1/80にして22.5mm。縦柱の中心間隔はこの長さです。柱側部の間隔ではないのでそこは注意してください。横の寸法は、この倍数で決まります。他の部分も基本的な寸法は決まっています。それに沿って窓や戸を配置すれば、比較的簡単に設計ができます。あとは好みで、実物を適宜アレンジしていけば良いのです。実物はかなり古い建物のようですが、私は戦後建築を想定したので、同じ出桁造でも新しい様式としました。
設計の際に、最も気を付けたのが内部の部屋割りです。
私は、建物は室内も作る方針ですし、設計段階で部屋割りを決めておかないと、窓や戸の配置も不自然になります。この時、方位も決めておきます。本作品では、正面から見て左奥が南、という想定ですが、これを決めないとやはり部屋割りができません。居間は南向きですから、大きな窓や縁側はそちら側に付きます。一方、台所や洗面所、風呂場などは隣家に面した側でいいので、そちらの壁には曇りガラス入りの小さな窓が並びます。右上の画像が建物の隣家に面した側、右下が南側から撮影した画像です。窓や戸の違いがおわかりになると思います。
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