A摂津鉄道 前ページへ 表紙へ


 機芸出版社刊『レイアウトモデリング』の巻頭を飾る16番ゲージレイアウト。前ページの通り、私が初めて読んだレイアウト製作記事です。
 それまでレイアウトというと交通博物館のものしか知らなかった私にとって、摂津鉄道はまさに衝撃的でした。
 プランは単純なエンドレスに駅が1つ。あとは貨物用の引込線が若干のみ。でも季節を晩秋、地域を関西に設定し、鉄道のある風景を伸びやかに表現した傑作レイアウトでした。
 広大な刈田。藁葺き屋根の農家と土蔵の建ち並ぶ農村。どこにでもありそうな小川。埃っぽい田舎道。平凡な田舎の小駅。それらが実にまとまりのある、のどかな情景を生み出していました。
 作者の坂本衛氏は、平凡な光景、ありふれた日常生活の中に、真に美しいものを見いだしたのです。坂本氏の表現では、「うまい物は食い飽きる」とのこと。絵ハガキ的な観光地でなく、庶民の普通の生活に視点を据えた製作姿勢は、私のレイアウト製作の原点にもなりました。余談ながら、この視点は私の本業や生き方にも、大きな影響を与えています。
 実物に対する観察眼も鋭く、貨物ホーム裏の水たまりや、川の中の朽ちた2本の杭、線路を外された側線の枕木の跡など、きめ細かく再現されています。
 レイアウトの設定として、時代や地域に加え、季節も限定したことは、従来日本のレイアウトに無かったことであり、それはご覧の通り圧倒的なリアリティを生み出しています。
 ここからレイアウトの世界に入れた私は、実に幸運だったと思います。
 唯一残念なのは、途中で坂本氏は腰を悪くし、製作中止に追い込まれたこと。その後、ここにご紹介する3セクション以外は処分されてしまったそうで、摂津鉄道の完成はもう夢となったようです。



※本ページの写真は全て、2010年8月21日にJAM会場で、坂本氏の許可を得て撮影しました。

蔵本村
 『レイアウトモデリング』の解説に、「日本のふるさとを表現した最初の作品」とあるセクション。最初の作品どころか、日本の農村をこれほど的確に表現したのは、現在のところ最初で最後の作品と言えるでしょう。
 藁葺き屋根の農家自体は現代のレイアウトでもしばしば見かけますが、土蔵や納屋、便所等の付属建築物がきちんと建っている作例は滅多にありません。
 そして、稲塚や馬車、洗濯物から干し柿に至るまで、さまざまな農村のアクセサリィが合理的に配置されて、生活感を醸し出しています。
 さらに、それぞれの農家には、一軒ずつ○○家と名称まで付けられています。建物の形状も、それぞれ違うのです。
 これらは全て坂本氏が設計し、ほとんど身の回りにある素材による手作りです。
 なだらかに起伏のある地形や、緩やかに曲がった小径なども、いかにも日本の農村です。
倉本駅

 蔵本村への玄関口となる駅。相対式ホームに貨物側線が付いただけの、平凡な配置です。
 坂本氏によれば、「昭和初期の、普通の田舎の駅」とのことで、そのねらい通りになっています。
 駅名と村の名前が、発音は同じでも漢字が異なる点がミソ。確かにそうした実例は、結構あるものです。
 線路は70番の引き抜きレールをハンドスパイク。建物やアクセサリィは、むろん全て自作なさった物です。
 3セクションとも、彩色も含めて製作当時のままとのこと。TMSに発表なさったのが「確か、東京オリンピックの年だった」そうなので、退色や破損が若干しかない現状は驚異です。なにせ、私もまだ生まれていない昔なのです。坂本氏は「少し煤けたけど、それもまた良いのではないかな」とおっしゃっていました。
農業倉庫

 摂津鉄道セクションの特徴的な点は、基盤が不定型であることと、道路や線路、小川などが緩やかにカーブしていることです。
 ジオラマのページにも書きましたが、セクションやジオラマでは基盤に平行な線を作らないのがセオリーです。線路や道路は曲げたり斜めにし、建物も斜めに配置するわけです。その効果は、このセクションを見るとよくわかります。
 なお、農業倉庫の白壁のウェザリングは、「自然にシミができて、こうなったんですよ」とのことでした。
車輌

 右写真は、坂本氏が17歳の時に自作したモニ13。いかにも坂本氏らしい、渋い題材です。
 下の写真2枚は、いずれも坂本氏の最新作。
 2台の蒸機は、いずれも完全な自作品で、製作総費用が約3,000円だとのこと。恐れ入ります。動輪まで真鍮パイプを輪切りにして自作したそうで、今どきここまで作る人はまずいないでしょう。まさに、工作派の面目躍如といったところです。
 電車はペーパー製。紙も市販品ではなく、年賀状の再利用とのことです。「ウチへ年賀状をくれると、こうなってしまいますよ」と笑っていらっしゃいました。

 ちなみに私のレイアウトも、生活廃品をかなり利用しています。どこがそうなのか、おわかりでしょうか。
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