E三津根鉄道 前ページへ 表紙へ
 機芸出版社刊『レイアウト全書』の巻頭を飾るTSCレイアウト作成の中心となった中村汪介氏が、それ以前に製作なさったホームレイアウト。中村氏にとって2作目のレイアウトで、1959年春に着工し、同年暮れには一応の形を整えた、とのことです。
 月刊『鉄道模型趣味』誌1960年6月号(通巻144号)に掲載され、中村氏の初の作品発表となりました。解説文はなかなかの名文で、特に「このレイアウトは…たぶん完成することはないのでしょう」という一文は、かの「レイアウトに完成なし」の格言の語源となったと推測されます。
 その後も「丘と温室とシグナル」「旅客駅の製作」等々、数回に渡って製作記事が掲載されています。
 定尺ベニヤ1枚のスペースで、2つに折りたためる地方私鉄風レイアウトでした。
 プランは、エンドレス1つに中間駅と機関区を付けただけのシンプルなもの。でもそれだけに、ほのぼのとしたローカルムードあふれるレイアウトでした。
 三津根鉄道はその後、多くの方が影響を受けたようです。Cページの城新鉄道は、まさに三津根鉄道の拡大細密版レイアウトですし、『鉄道模型趣味』誌2004年12月号(通巻732号)でも小林信夫氏が、「これ以上、何も要らないし、何が欠けてもダメです」と絶賛なさっています。むろん私も影響を受けた一人ですが。
 さて、右写真は中村氏が1991年に自費出版なさった『趣味に生きる』です。TMS589号に掲載された中村氏の「近年の作品から」によれば、「非売品として600名余りの全国の同好の士に贈呈させていただきました」とのことですが、私も縁あって一冊頂戴いたしました。ここにTMSから転載した平面図や写真が載っているのですが、紙質が良いので見応えがあります。特に駅周辺の雰囲気は実にのどかで、地方私鉄の魅力が良く表現されています。決して細かくはないものの、実物の本質を上手に表現されているのです。
 写真よりイラスト、あるいは写実的絵画より抽象絵画の方が、対象の本質を的確に表すことがあります。中村氏の作品も、そんな感じです。

中村汪介著
『趣味に生きる』
(非売品)

 『趣味に生きる』には、TMS632号掲載の「新・三津根鉄道」も掲載されています。
 スペースは1820mm×300mm。テーマは「昭和30年代以前の地方の小鉄道」とのことで、駅と機関庫を中心としたレイアウトセクションです。
 1984年から3年間かけて製作なさったそうで、ストラクチャーが全て自作なのは三津根鉄道と同様です。そのため、全体的に雰囲気の統一感があります。
 ストラクチャーでもアクセサリィでも、山や樹木などのシーナリィでも、ただ並べるだけなら誰でもできます。でも、全体の調和をとるのが難しいのです。ここはやはり、中村氏の感性の鋭さによるものなのでしょう。
 前述した小林信夫氏の記事には、三津根鉄道について「省略の美を感じさせるレイアウト風景」と表現されていますが、それは新・三津根鉄道についても言えます。さすがに時代が違うのでアクセサリィの一部は既製品が利用されており、そのためもあって前作よりは細部が作り込まれていますが、やはりスッキリとしたまとまりが感じられるのです。
 実物を模型化する時は縮小するわけですので、全てを表現することは不可能です。何を省略し、何を残すか。これは私にとって、大きな課題です。
中村氏のサインと手紙。
 ところで、右写真をご覧下さい。言わずと知れたカワイモデル製路面電車ですが、実はこの製品、基本設計を中村氏がなさっているのです。
 この路面電車は、私が初めて購入した16番ゲージの車輌でした。それまではNゲージでしたから、私の模型歴に一大転機を与えた製品なのです。
 あれは小学校6年生の、正月のことでした。池袋の西武デパート内「しぐなるはうす」のショーウインドーで見てどうしても欲しくなり、それまで貯めてきた小遣いに、もらったばかりのお年玉を足して、2輌まとめて購入したのです。確か、1輌8,600円でしたから、当時の小学生にとって相当な大金を払いました。後で母と祖母から、「こんな高い物を」「しかも2輌も」とさんざん言われましたが、私は満足でした。2輌並べると魅力は倍加しましたし、いかに地方私鉄といえども1輌では開業できませんから。
 阿部敏幸氏によれば、私は中村氏と「同一傾向の方」だそうですが、その兆しは小学生の頃からあったのでしょう。
 ちなみにこの2輌は、今でもちゃんと走ります。さすが堅実なカワイモデル製品です。
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