名鉄谷汲線1998 前ページへ 実物鉄道へ

(モ751 谷汲〜長瀬 1998.12.28)


 樽見鉄道に初めて乗った時、人家のほとんど無い山間の川向こうに架線柱がズラリと並んでいるのが見えて、驚いた記憶があります。こんなに人口が少なくても、2本の鉄道が並行して存在できるのか…これが名鉄谷汲線との出会いでした。
 戦前生まれの古豪モ750形が単行で山里を走る谷汲線は、当時現存したあらゆる地方私鉄を凌駕するローカルムードたっぷりの路線でした。豊かな自然の中を走り、変化に富んだ車窓を楽しめました。
 谷汲線は、戦前開業の多くの鉄道に見られたように、参拝客のための鉄道でした。だから人口が少ないのに、鉄道が敷かれたわけです。
 終点の谷汲は、樽見鉄道の谷汲口からバスで6分の、「谷汲双頭門」バス停の近くでした。そのくらい近くを並行して走っていたわけです。
 駅本屋は大手私鉄らしく新しい建物でしたが、何故か「昆虫館」が併設されていました。
 電車の本数は右写真の通り。見事に毎時一本で、こちらは大手私鉄らしくありません。
 電車は全て単行運転でした。

(モ751 谷汲 1998.12.28)


 ホームは1面2線の島式ですが、2番線はポイント部が撤去されていました。
 待つことしばし、赤い電車がツリカケモーター音とブレーキ音を賑やかに響かせて到着します。
 モ750形はワンマン化され、窓枠はアルミサッシ、ヘッドライトはシールドビームとなったものの、原型をよくとどめています。いかにも戦前製らしい、重厚なスタイルが魅力的な電車でした。

(モ751 谷汲 1998.12.28)

(モ751 谷汲 1998.12.28)


 谷汲駅そのものも、駅本屋以外はローカルムードたっぷりです。
 周囲は静かな門前町。幅の広いホームと立派な上屋が、参拝客で賑わった昔を偲ばせています。
 ホーム上には参拝客向けの幟がはためいていましたが、それらしい乗客はほとんどいませんでした。

(モ751 谷汲 1998.12.28)

(モ751 黒野 1998.12.28)


 モ750形の運転席は開放型で中央にあります。とても狭くて、機器はシンプル。ワンマン機器を別にすれば、マスコンとブレーキハンドル、速度計と圧力計、手ブレーキくらいです。戦前の電車の典型的な運転席でした。
 車内は平凡なロングシートでしたが、木部が温もりを感じさせる半鋼製車でした。
 この頃は既に、この種の電車が現役なのは他に銚子電鉄くらいでした。
 乗客は少なく、その点でも典型的なローカル線です。

(モ751 黒野 1998.12.28)

(モ751 黒野 1998.12.28)


 谷汲線は黒野で揖斐線と接続します。
 同じホームで、新岐阜へ直通する揖斐線の電車の後ろに停車します。乗り換え客には便利ですが、この停まり方も前時代的です。
 モ750形の妻面は緩くカーブし、ジャンパー栓がものものしく、力強さを感じさせました。派手な名鉄スカーレットも、この車輌にはよく似合っていました。

(モ751 谷汲〜長瀬 1998.12.28)


 谷汲線は、元は美濃電気軌道の傍系である、谷汲鉄道という独立した地方私鉄でした。名鉄の一支線となってからも、その雰囲気を色濃く残していて、銚子電鉄とともに、この時期最後まで残った「いかにも地方私鉄らしい」電化私鉄でした。
 夕日を浴びて去りゆくモ751を眺めながら、心の安らぎを感じたことを今でも覚えています。
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