小湊鐵道を建設する鉄道連隊 その@ 2016.11.10新設 前ページへ 実物鉄道へ 表紙へ

 2016年の1月19日から2月14日まで、JR総武線稲毛駅前にある「こみなと稲毛ビル」5階の「こみなと稲毛ギャラリー」にて開催された、「SATOYAMAイズム!小湊鐵道のアートな楽しみ方」では、小湊鐵道が所有する貴重な物品や資料の数々が展示されていました。

 でも何より驚かされたのは、会場で上映されていた動画です。

 一見して戦前のものとわかる不鮮明なモノクロ映像でしたが、なんとこれが小湊鐵道建設時の記録で、しかも旧日本陸軍鉄道連隊により制作されたものだったのです。

 鉄道連隊とは、大日本帝国陸軍が戦場における人員や物資輸送用に組織していた部隊で、兵士だけでなくレールや機関車、貨車などを多数保有していました。

 現代では戦地のそうした輸送は主に自動車やヘリコプター等で行いますが、戦前はむろんヘリコプターはなく、自動車産業も貧弱だった日本では、鉄道が陸上における軍事輸送の要だったのです。

 また、広い大陸での戦争を想定していた陸軍にとって、長距離輸送向きで大量輸送も可能な鉄道は重要でした。そこで戦地の鉄道を修復したり、新たに建設するための部隊が必要とされたのです。
 鉄道連隊の本拠地は千葉県で、現在も千葉市や習志野市等に多くの遺構が残っています。

 鉄道連隊が使用していた97式軽貨車は各地の地方私鉄で台車として現役で、私も小湊鐵道をはじめ、ひたちなか海浜鉄道、岳南電車、熊本電鉄、鉄道時代の西武山口線で見てきました。

 鉄道連隊は軍隊ですから、平時は当然、演習をします。演習のための路線も保有していて、戦後その一部を利用して新京成電鉄が開業したのは有名な話です。
 それ以外にも、地方私鉄の建設に演習として参加していました。小湊鐵道の近くにあり、戦前廃止された南総鉄道もそのひとつです。
 小湊鐵道建設時にも鉄道連隊が出動したことは、各種文献やサイトに記載されています。遠山あき著『小湊鉄道の今昔』崙書房出版p.57には、その記録映像があることも記載されています。でもこれほど詳しく記録されているとは思っておらず、心底驚かされました。

 さて、「小湊鉄道建築作業」と題した映像は2巻から成り、第一巻は4編、第二巻は2編に分かれてそれぞれタイトルが付けられています。

 冒頭では「大正十三年 鉄道野外演習」「約800人 三週間」との表示もありますが、これは参加した兵士の人数と期間でしょう。一個連隊が1,000名強ですから、800人という人数はそれに近い数です。

 なお映像の地図には、小湊までの計画線がしっかり描かれています。

 「第一巻」の最初は「五井駅に於ける鋼板桁の積載」です。

 映像には、クレーンで鋼板桁を吊り上げるイラストが描かれています。

 その前半は、鉄橋用のガーダーを操重車がクレーンで枕木を井桁状に積んだ上に載せる作業ですが、操重車には煙突があるので蒸気式でしょう。操重車のドアが開いているため、運転席の様子もわかります。

 なお2枚下の写真後方に写っている建物は、小湊鐵道建設を受注した鹿島組の五井出張所です。同社は現在の鹿島建設で、詳しくは後述しますが、土木工事は基本的に同社の施工によるものです。

 鉄道連隊は、その手伝いをしているわけですね。
 
 後半では、井桁に載せたガーダーを、レールを使って人力で長物車に移しています。

 兵士とはいえ、よくこんな重量物を人の手で動かしたものですね。

 次のシーンは、「建築列車の運転 演習三中隊」です。

 1号か2号と思われるボールドウィン製蒸機が、ト1形無蓋車を10輌ほど牽引し、建設現場へ向かって行きます。無蓋車には建設資材の他、30名程の兵士が直立不動で乗っています。兵士の先頭には、指揮官らしい姿も見えます。

 撮影場所は五井駅構内でしょう。

 なお、ト1形は後にトム1形となり、現在もトム10と11の2輌が工事用として健在です。

 途中で鉄橋を渡るシーンもありますが、これは養老川第一橋梁でしょう。ここは既に完成しているわけです。

 現在の上総山田と光風台の間に架かっている鉄橋です。

 右写真は現在の同地点。橋脚の一部は河川改修時に建て直されています。
 鉄橋を渡るのは、DB4が牽引する「里山トロッコ」号の回送列車です。

 鉄橋を渡る建築列車は、五井駅構内で撮影された列車とは異なるようで、最後部の2輌はトではなくチのようです。
 真新しい橋脚や、草1本生えていない築堤が新鮮に見えます。

 それにしても、開業前の工事列車の映像を見ることができるとは、感無量です。
 すごいなあ。
 鉄道部長さんのお話によれば、保管されていたフィルム映像を、以前テレビ局のスタッフがビデオテープにダビングしたものを、今回の企画のためにDVD化したのだそうです。


 
 さて次の映像は、養老川第一橋梁と平三川橋梁を建設するところです。
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