秘境駅   その1 2016.8.11新設 前ページへ 表紙へ

(小幌 2015.7.27)


 旅をしていると、「なぜこんな何もないところに…」と不思議に思う場所に駅があることがあります。
 都会で生まれ育った人にとっては駅前にビルもコンビニもない駅は「まわりに何もない駅」なのでしょうが、そうではなくて本当に商店はおろか人家もない駅もあるのです。
  「ここはまるで秘境だなぁ」と思う駅もあったので、2001年に牛山隆信著『秘境駅へ行こう!』(小学館文庫)を見たときは衝動的に買ってしまいました。
 同書により、秘境駅は私の知識をはるかに超える数があることがわかり、その楽しみ方も含め、旅の魅力に幅が広がりました。
 また、鉄道模型の視点で見ても、秘境駅は興味深い存在です。レイアウトを設計していると、駅は作れても人家を置くスペースに困ることがあります。私の「上総鉄道」のように平地の鉄道ならともかく、山を作ろうとすると人家の配置が難しくなるのです。河田耕一氏が『シーナリィ・ガイド』で書いていらっしゃるとおり、レイアウトの僅少な面積に対し山はあまりに巨大なので、山裾の一部しか作れません。そしてそれで、ほぼいっぱいになってしまいます。あとは、なんとかレールを敷いて駅を作るスペースを確保し、それでおしまい。駅も駅本屋だけで附属建築物を置くスペースがない。
 そんなときは、いっそ秘境駅にしてしまえばよいのでは。駅本屋など置かず、短いホームを作るだけ。人家も駅前広場もいりません。工作も簡単です。
 秘境駅の中で、特に印象に残っている駅をご紹介します。
室蘭本線・小幌 (2015.7.27)

 室蘭本線は北海道の鉄道を代表する大動脈ですが、それでも秘境駅があります。これは北海道だから、ではありません。意外なことに、秘境駅は幹線にもあるのです。
 小幌駅は室蘭本線の非電化区間にありますが、線路はさすがに複線です。
 2本の長大トンネルにはさまれた僅かな平地にある駅で、周辺に人家は皆無です。少ないのではなく、一軒も無いのです。そこにあるのは、短いホームが2本と保線小屋が2棟あるだけ。待合室さえありません。
 かつては信号場だったそうで、そう思って眺めるとこの立地も納得できます。
 

↑家も道もありません


 小幌駅は三方を断崖絶壁に囲まれていて、昼なおくらい谷底のような場所にあります。
 あとの一方は海で、駅に通じる道路すらありません。
 この駅に、列車以外の方法で来るのはほぼ無理です。
 降車した後で列車が止まってしまったら、遭難しそうです。
 私もさすがに冬場は降りたことがありません。

 2本あるホームのうち1本は、石積みの側壁の様子から、信号場時代からのものと思われます。先端部は小さな沢にかかっていて、そこは橋状になっています。
 もう1本は仮設ホームのような簡単なもので、列車から降りるときは少々緊張しました。
 複線の間に、信号場時代からの中線もあります。

↑石積みのホーム先端は橋になっている

↑出口の見えない長大トンネル

↑駅前広場


 山に囲まれた小幌駅も、唯一、内浦湾側のみ開けています。ここがつまり駅前広場なのでしょうが、現状は左写真のとおりです。
 この先は急な下り坂になっており、そのまま降りると海岸に出られるそうです。でも私はこの藪に恐れをなし、行きませんでした。

 前述した中線の先は、かつてトンネルになっていました。そしてトンネル内で本線に合流します。2本のトンネル間の明かり部分が短く、待避線としての有効長を確保するためこのような構造になっていたのでしょう。現在、中線のトンネルは封鎖されています。

 この駅に停車する列車は右写真の通り僅かですが、そこは室蘭本線。通過列車は多く、いずれも全く減速せずに轟音と共に通り過ぎます。ホームにいると、かなりの恐怖感があります。

↑中線のトンネル跡

↑恐怖の通過列車

土讃線・坪尻 (1998.8.9)

↑上写真の左端が駅前広場


 四国を縦断する土讃線は、当然山脈を越えていくことになります。
 そんな場所にあるのが、坪尻駅。
 今では珍しくなった現役のスイッチバック駅です。
 この駅も元信号場で、周辺には人家は皆無です。小幌と違って人が歩ける山道はありますが、車道はありませんから車では来られません。
 ホームは片面のものが1本あるだけですが、駅本屋はあります。昔は有人駅だったそうです。
 駅前広場もありますが、未舗装で雑草が生い茂っています。

↑ホームの先は山

↑スイッチバックの引上線より駅を見る

いすみ鉄道・久我原 (2015.3.21)

↑駅前より撮影


 久我原駅は、東京から最も近い秘境駅ではないでしょうか。
 蛇行する夷隅川にはさまれた、狭い平地に駅はあります。周囲は、房総半島らしい低山に囲まれています。
 駅のホームから人家は見えず、駅に至る道路も左写真のとおり。駅には、ホーム1本と簡素な待合室があるだけです。
 待合室の椅子に座ると、目の前は藪です。
 実は5分ほど歩くと交通量の多い国道297号線に出るのですが、駅の周囲は荒れ地や雑木林で、とても首都圏の駅には見えません。
 でも、ホーム上や待合室内はきれいに掃き清められ、花壇には花が咲いています。地元の方々に愛されている駅なのでしょう。

 経営の苦しい第三セクターのこと、駅名は売られ、現在は「三育学院大学久我原駅」になっています。
 もっとも、大学の最寄り駅とはいえキャンパスまでは3kmくらいあり、しかも全寮制ですから学生が利用するわけではありません。

↑花壇の花がきれい

↑裏手からだと駅に見えない

↑ホームの狭さが乗降客数を物語っています

↑待合室の椅子に座ると、目の前の光景がこれ

札沼線・豊ヶ岡 (2017.8.2)

↑昼なお暗い林の中にある、典型的な秘境駅です。


 札沼線が電化区間と非電化区間で全くようすが違うことは、皆様もご存じの事と思います。電化区間は典型的な通勤通学路線で、非電化区間は典型的なローカル線です。
 そして非電化区間は、近い将来廃線となりそうです。

 豊ヶ岡駅は、その区間にある秘境駅です。
 札沼線は基本的に石狩平野を走りますが、途中1ヵ所だけ山間部へ入ります。その中にあるのが豊ヶ岡です。
 駅周辺は林の中。人家は見えません。
 駅前通りは一応車が通行可ですが、1車線で未舗装です。
 坂を上り、少し歩くと遠くに農家が見えてきます。
 陸橋もあり、列車を俯瞰することもできます。

 この駅の魅力は、木造の待合室です。利用客のほとんどいない当駅にはもったいないようなしっかりした造りで、入り口の白熱灯が郷愁をそそります。

 短いホームはコンクリートの土台の上に枕木を並べただけで、表面はデコボコです。まあ、昔の無人駅には、よくありましたけど。

 以前、真冬にここを列車で通ったことがありますが、さすがに降りる気にはなりませんでした。

↑駅前通りです。

↑待合室が見えてきました。

↑木造の待合室は好ましいスタイル。模型化したくなります。

↑古い建物ですが内部は掃除され、比較的きれいです。

↑コンクリートの土台に枕木を並べた簡素なホーム。

↑ホームはキハ1輌分です。

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